
毎日食べたい、野菜たっぷりの〈sai kasumiごはん〉。誰もがよろこぶやさしいごはんで、おなかも心もまんぷくに。

kasumi 西武線在住歴15年
東長崎エリアで長く暮らし、家族が増えてからは小金井市へお引越し。所沢と川越にあったお店には西武線に乗って通勤。
人のご縁をきっかけに、めぐりめぐって所沢の地へ。

所沢駅の繁華街を抜けたその先に、マンションに囲まれた古民家がひっそりと現れます。〈柿ノ木ノ下〉と名づけられた築80年の平家の一軒家の一角にある〈sai kasumiごはん〉は、以前ご紹介した〈kieido〉の店主・寺内さんのお気に入りのお店でもあります。
2020年、あの〈sai kasumiごはん〉が所沢に戻ってくる!と、かつてのお店を知る人たちは大喜び。2015年にオープンして以来、変わらず一汁三菜のやさしいごはんを作り続けています。
お豆腐やお麩、野菜などを中心にした日々のごはんは、ヘルシーなのにボリューム満点。しっかり食べたい人でも、おなかがいっぱいになるはずです。化学調味料などは使わず、すべて手づくりにこだわっています。

もともと、保育園で給食を作っていたという店主のkasumiさん。いつかの夢は、飲食店ではなく、意外なものでした。
「かけたり、和えたりするだけで手軽に一品料理が完成する“合わせ調味料”みたいなソースをいつか販売してみたいなと思っていたんです。保育園で働いている時、お母さんたちが忙しすぎるなと思って。和えるだけ、かけるだけでおいしく食べられるソースがあれば便利だし、きっと多くの人に喜んでもらえるんじゃないかという思いがありました」
しかし、思ってもみなかったごはんやさんをやることになったのは、たまたま遊びに行った雑貨店の2階が空いているという話を聞いたことがきっかけでした。
「でも、なかなか借りる決断がつかなくて。飲食店をやったこともなかったですし、果たしてお客さまは来てくれるのだろうか、ほんとうにお店をやりたいのかとずっと悩んでいて。保育園を辞めた後はスーパーでお惣菜を作ったりしながら、1年ほど悶々としていました」
野菜を中心とした、自分らしいごはんを出せるようになるまで。

いよいよ大家さんから焚きつけられ、物件を借りる決心をしたkasumiさん。当時から変わらず、一汁三菜のおうちごはんを提供してきました。
「だれが来ても、食べられるごはんがいいなと思ったんです。子どもでも、おじいちゃんでもおばあちゃんでも、みんなが食べられる、いつもの私のごはんを出せるお店にしたいなって。川越に移転してからは、肉と魚をほぼ使わなくなりました。豆腐やお麩とかを使ったおかずをメインにするようになって。ごはんもお茶碗盛りにしていたのをおにぎりにして。そうやってだんだんと、いまの〈sai kasumiごはん〉ができていったんです」
川越での3年間は「修行でした」とkasumiさん。肉や魚を使わないで、どういうメニューが作れるか、今までとは違う工夫が必要でした。
「豆腐やお麩を使うことで食感もやわらかくなるから、食べやすくなりますよね。あとは、とにかく胃が疲れないようにと考えました。でも、いっぱい食べたい気持ちはあるからボリュームはなくしたくない。揚げ物にしてみたりと、調理法を工夫しています」

川越で丸3年営業した後、建て壊しが決まり、またもや引っ越さなくてはならないと考えていた時、いまの〈柿ノ木ノ下〉のオーナーが食べに来てくれました。「人が来る場所にしたいから飲食店をやろうとしている」という話を聞いて、立候補。ふたたび、所沢に戻ってくることになりました。
「転々としてきましたが、〈sai kasumiごはん〉としては7年目で、自分らしさがだんだんとできてきたかな。所沢の頃のお客さまが川越に食べに来てくれたり、今度は川越の方が所沢まで食べに来てくれたり。週2回食べに来てくれるお客さまもいるんですよ。どのお店も、人とのめぐり合わせがきっかけでお店を開くことができましたし、お店に来てくれる人も長く通ってくれる方がとても多くて。みなさんのおかげで〈sai〉は成り立っています」

人とのつながりから生まれる拠点。西武線に揺られながら街から街へ。

〈sai kasumiごはん〉を求めて、たくさんの人が通ってしまうのはなぜなんでしょう。その秘密は「ありそうで、どこにもないごはん」だからなのかもしれません。
「家庭料理を出しているお店が少ないからだと思います。家族に作るみたいなごはんなんです。調味料も食材もこれならば食べてほしいなと思えるものを選んでいます。 “給食のおばさん”に近いのかもしれないですね。保育園で働いていた時『この子たちのためにおいしく作ってあげないと!』って思いながら作っていました。そんな感覚なんです」

所沢に戻ってからは、お弁当も始めました。夕飯用にとお弁当を買ってくれる人や、おそうざいだけを家族の人数分買っていく人も。そうやって、お客さまのニーズに合わせて柔軟に対応しているのだそう。
「お店を閉めたあと、仲良しのお客さまと一緒に〈sai〉のおべんとうを持って所沢航空記念公園でピクニックしたりもしたんですよ。季節がいいと最高なんです」
毎年11月には、所沢航空記念公園で開催されている「暮らすトコロマーケット」に〈sai kasumiごはん〉として出店しているのだそう。かつて、所沢にあった『三八の市』の現代版としてはじまったマーケットなんだとか。
「所沢ってすごくおもしろい街だと思います。たくさんマンションが建っていてすごく近代的かと思えば、農家さんも住んでいて畑もありますし。所沢はチェーン店が多いイメージなんですけど、『暮らすトコロマーケット』を主催するお店や出店しているのは個人店ですし、こうして街を盛り上げてくれる人たちがいる。それってなかなか簡単にできることではないから、その労力に感謝していますし、お店同士で行き来したりと交流もあって、本当にいいなって思うんです」
人と人のご縁があって、所沢の地に戻ってきたkasumiさん。個人店同士のつながりや、所沢だからこそ生まれた出会いに導かれて、きっとこれからも続いていくことでしょう。

今回ご紹介した〈sai kasumiごはん〉について

住所:埼玉県所沢市寿町22-2
営業時間:水曜〜土曜 12:00〜15:00
定休日:日曜、月曜、火曜
https://www.instagram.com/sai.kasumi.gohan/?hl=ja
(photo:Kaori Ouchi, text:Kayo Yabushita)