
賃貸マンションの一室に誕生した“サステナブルな暮らしの実験場”。石神井公園〈R‐Space〉が提案する、ローカルライフのすすめ。

深津康幸 西武線在住歴13年
山形の美大卒業後、大泉学園へ。結婚を機に石神井公園に移住。2018年、石神井町7丁目に〈ノウ株式会社〉を設立。2020年に〈R-space〉をオープン。
目指したのは、「環境への気づきや、商いを始める“きっかけ”が生まれる場所」。

石神井公園駅から少し離れた、公団が立ち並ぶ住宅街の一角にある〈R‐Space〉。この場所に、カフェ、シェアキッチン兼コミュニティスペース、コワーキングオフィスを備えた次世代型の共有スペースが誕生したのは、2020年の秋のことでした。
企画・運営に携わるのは、石神井町7丁目に本社を構える〈ノウ株式会社〉代表の深津康幸さん。「暮らしに関することすべて」を事業領域に掲げる、深津さんの会社のプロジェクトのひとつとして〈R‐Space〉が立ち上げられました。
「グラフィックデザイナー、インテリア、プロダクト、デジタルコンテンツなど、デザイン会社からウェブ広告までこれまで様々な企画やディレクションを手掛けてきましたが、ふと振り返ったとき自分の生活に関わるクリエイティブを作ってきていない、と気づいたんです。そこで、『自分の暮らしに影響のある仕事を中心にしたい』と2年前に起業。ちょうど1年前くらいに、知り合いだったシェアハウスの企画・運営・管理を行っている〈シェアリアル〉さんから、この物件の相談がありました」

駅から遠いこの立地では、シェアハウスの運営は難しいと判断。そこで、“サステナブルな暮らしの実験場”をテーマにした、コミュニティスペースとしての活用を提案したのです。
「普段生活していて環境問題に関心があっても、自分に何ができるのかってよく分からないじゃないですか。それを考えたり、みんなで学んだり、実践してみる場所があったらいいなと企画しました」
3LDKの住居用マンションの1室をリノベーションした〈R‐Space〉は、解体工事で出た廃材を利用して空間を構築。目を凝らすと、洗練された空間の中に、サステナブルな工夫が散りばめられています。

「レギュラー営業の喫茶と並行して、月・水はおでん、金はボルシチ、日はカレーなど、曜日ごとにそれぞれ違う人が1日店主の感覚で店に立ってもらっています。飲食店を営んでみたい人や、本業の空き時間に得意料理を売ってみたい人とか、そういった人たちのチャレンジショップとして利用してもらえたらと。このスペースで、コンセプトに関連したトークイベントやワークショップなども開催しています」
住み家の近くで気軽にコーヒーやお酒が飲めて、ご近所さんと交流しながら、おもしろいヒトやコトに出会える。石神井に住み、働く深津さんの「こんな場所があったらいいな」をカタチにした〈R‐Space〉は、地元の人たちの憩の場であると同時に、環境への気づきや商いの第一歩となる“きっかけ”をもたらしています。
「街を知る」イベントから、面白いコミュニティーやアイデアが続々誕生!

「地元ために何かしたい」と独立・企業したものの、石神井に住みながらそれまで地元のことは全く知らなかったという深津さん。そこで、あるイベントを企画します。
「街のことを知りたくても最初はツテもないしパイプも全然ない。そんなとき、豊島区の『としま会議』というイベントを見に行ったらとても素敵なイベントで。練馬版をやってほしいと主催者に相談したら、『自分でやっちゃえばいいじゃん』と(笑)。それで、『としま会議』のスタイルを踏襲して『ねりまクエスト』を始めました」
イベントの内容は、エリアを区切り、そこで活動している人を多ジャンルでピックアップし、テーマを設けずフリートーク。イベント終了後は交流会があり、フードやお酒は地元のものを振る舞う……というもの。
「開催するには、登場してもらうゲストを見つけなければなりません。運よく上石神井に住んでいるクリエイティブ業界の知り合いがいて、『地元に面白い人がいるからみんなで飲もう』となり、そこで〈スタンドブックス〉の森山さんや、石神井公園の『森のジャズ祭』や『井のいち』の運営に携わっている方たちと知り合いました。そこからの紹介で、『ねりまクエスト』の第1回は、『井のいち』主催者の〈クヌルプAA〉の町田さん、大泉のベーカリー〈ブーランジェリーベー〉の國島さんなど、石神井と大泉で活動されている方々に登場していただきました」

過去に、石神井、上石神井、大泉、江古田などで4回開催されている「ねりまクエスト」。このイベントをきっかけに、ゲスト同士やゲストと来場者が繋がり、いくつかのプロジェクトも誕生しました。第1回の会場になった石神井公園の〈ウェルダースダイナー〉と、大泉の〈東京ワイナリー〉が出会い、ワインの澱を使ったオリジナルビールが生まれたり、『森のJAZZ祭』のスタッフTシャツやノベルティの制作を、森のJAZZ祭の実行委員の石倉さんと上石神井で印刷とギャラリーを営む〈KOYA〉でコラボしたり。

なかでも、大泉学園の回に出演した〈白石農園〉の白石さんとは、ここでの出会いをきっかけに「脱プラスチック野菜販売所」のプロジェクトが生まれ、エディブルインクで文字をプリントした野菜がメディアに取り上げられ話題になりました。
「街の人たちと横でつながって、おもしろいアイデアが生まれて形になって、さらに地元で経済が回るなんて素敵なことですよね」
“街を知る”を目的に起こしたアクションが、地産地消や地域活性などの、サステナブルな暮らしにつながるモノや人との絆を生み出すイベントへと成長したのです。
「多すぎず少なすぎず、ちょうどいい感じ」が、石神井の魅力。

〈ノウ〉を起業する以前は、休日には都心のおしゃれな店や飲食店に出かけることが多かったという深津さんですが、今はもっぱらオンもオフも石神井で過ごすことが増えたそう。
「味にこだわるコーヒー屋さんもあるし、センスのいいクラフトの器を売っているギャラリーもあるし、遠くから足を運ぶピッツェリアもある。それに、石神井ってクリエイティブな感性を持ったおもしろい人がけっこういるんです。都心にわざわざ行かなくても地元にあるじゃん!って、ここ2年くらいで気づきました。多すぎず少なすぎず、そのバランスがちょうどいい感じ。だから、一つひとつのお店への愛着も増す気がします」

街に住む人も、それなりの金額はしても、いいもの・おいしいものには対価を払う感覚の豊かな人や、そういう価値観の世代が増えてきていると感じているそう。そんな街の感性を育む一角を担う存在でもある深津さん。コロナの影響もあり、都心一極集中ではなく働く場所が分散する時代に変化しつつある今、こんな展望を抱いています。
「僕のような会社がここで事務所を構えて、ちゃんと仕事が成り立つことをケーススタディに、地元のクリエイターやサラリーマンが地元で働き、お金がちゃんとまわるようなローカル経済圏を作っていきたいです。そのために、個人事業主の方だけでは難しい広報PRやデザインの提案、SNSの活用法など、これまでの経験で培った自分の知見を惜しみなく活かして地元を盛り上げていきたいですね」
もっと住みやすく働きやすい、魅力的な街へ。ヒトとヒト、モノとモノ、ジャンルや年齢を超えて絆をつなぐ“縁の下の力持ち”によって、石神井のローカルライフが素敵に変わりつつあります。
今回ご紹介した〈R‐Space〉について

■住所:東京都練馬区石神井台3-20-9-103
■https://rrrrre.space/
イベントやカフェなどの営業日時については、Facebookをご覧ください。
https://www.facebook.com/rrrrre.space
※記事に掲載されている情報は取材時のもので、現状と異なる場合がございます。
(photo:Hiromi Kurokawa,Natsumi Kakuto text:Ayano Sakai)