
できるだけ決まりをつくらずに、でもこだわりをもって、有機的に広がっていく。〈コンビニエンスストア髙橋〉は、“コンビニ”のニュータイプ。

髙橋諒自/ネイト 西武線在住歴3年/27年
髙橋諒自さん/ネイトさんご夫婦が2020年、自宅の近くに〈コンビニエンスストア髙橋〉をオープン。
両極をいいバランスで併せ持つ街、練馬区春日町。

〈コンビニエンスストア髙橋〉がオープンしたのは2020年11月。「コロナ禍という状況は障壁ではなかった」とオーナーの髙橋諒自さんは涼しげに言います。
「当初は勤めていたのですが、こういう不安定な世の中になったことで、自分でやるべきタイミングが来たんだな、と単純に思ったんです。それに、こういうときこそ街にコンビニがあったらいいじゃないか、チャンスなんじゃないかって」
髙橋さんはこれまで、海外も含めてさまざまな場所で暮らしてきました。国内外問わず、そのときどきで自分のやりたいことができる場所に移動する生活だったので、エリア自体にはさほどこだわりはなかったのです。ですが、髙橋さんの妻であるネイトさんの地元は練馬区平和台。ネイトさんの家族が暮らす、愛着のあるこの界隈で、髙橋さん夫婦は住居を探すことにしました。
「庭のある平家を探していて見つかったのが、この近くだったんです。古い民家がわりと残っている地域で。それで、店をやるなら家の近くがいいと思っていたんですが、たまたま空き物件だったこの外観を見かけて、あ、ここ、いいなって」

というのも、店名だけは先に決めていた髙橋さん。店名とこの物件の雰囲気がマッチしている、とピンときたのでした。
「それにこのあたりは、都心からさほど離れていないのに、けっこう田舎でもあって。住んでいる人たちもそう。地域に根ざした年配の人もいれば、都会で働いていて、そのエッセンスを地元に持って帰ってくる若者もいる。街が、その両面をもっているところがいいんですよね」
「サーフィンをやる夫に対しては、海の近くではないのがじつはちょっと気の毒でもあるんですが、私は生まれ育ったこの場所が大好き」と地元を絶賛するのは、ネイトさん。
「アクセスがよくてどこにでも出やすいし、子育てもしやすいですよ。とにかく公園がたくさんあるので、ここの滑り台があいてないから、じゃああっちに行こうなんて、はしごができるくらい」
たったひとつ不満だったのは、お気に入りのカフェがないことでしたが、それもすでに解決済み。だって、自分たちでつくってしまったからです。
なんでもありの、理想のコンビニエンスストア。

〈コンビニエンスストア髙橋〉は、一般的に想起する“コンビニ”とはずいぶん違います。
「なぜコンビニと名乗ってるか、ですか? 単に、やりたいことがいろいろあって、なんの店か限定できなかったから。商店を現代風にいうと“コンビニ”になるのかなって」
髙橋さんはパンづくり、飲食業界で経験を積んできたネイトさんは料理とワインとコーヒーが好き。さらに、せっかく場所を開くなら、友人たちがつくる魅力的なプロダクトも紹介したい。つまり〈コンビニエンスストア髙橋〉は、ベーカリーであり、カフェであり、セレクトショップでもあって、ときにはイベントスペースになることもあるのです。

「コンビニは人々の生活に寄り添っていますよね。ないと困る人もたくさんいると思います。でも実際、売っているものは大量生産のものや、間に合わせのものが多いのも事実。それはそれでもちろん必要ですが、ちょっと違う方向性のコンビニがあってもいいはず。自分たちの“理想のコンビニ”が実現できたら、それは街にとっても悪くない存在なんじゃないかなって思ったんです」
あまり制限せず、決めつけずに、できるかぎりいろんなことをやっていきたい。
「コンビニだから、なんでもあり」という考えは、働くスタッフに対しても同じこと。
「ありがたいことに、いまいるスタッフはみんな個性的なんですけどね。それぞれの人が、それぞれの分野で特化しているといいなと思っていて。たとえば自転車が好きなスタッフが入ったら、店頭で自転車整備のサービスができたらいいかも、とか。そうすると、店名にもさらに説得力が出てくると思います」
じっくり向き合えるものづくりの、結果としての人とのつながり、広がり。

デザインやダイビング、漁の手伝い、撮影に英語の勉強など、自分に適した表現方法を探し続け、これまでさまざまなことに人生をかけて試してきた髙橋さん。なかでも被災地でのボランティア活動では、被災した人々に触発され、自分も強く生きる力を身につけたいと思ったといいます。そして、オーストラリアにある大好きなレストランで働いたのをきっかけに、パンづくりに目覚めました。
「同時に複数のことをスピーディーにこなすのは苦手だから、自分の表現は料理ではないかも、と。その点、パンはじっくり向き合えます。少ない材料で、自分ひとりで食べ物がつくり出せるのも魅力に思えました」
髙橋さんのパンづくりは、基本的には冷蔵庫とオーブンだけで、機械類はほとんど使いません。生地を発酵する温度管理でさえ、クーラーボックスにやかんを入れて調節するなど、「やり方は、家庭でのパンづくりの延長みたいなものです」。

「そう、うちのパンはブレブレなんです。でもそのおかげで新しい発見があったりして楽しんでいます。じつは僕、パンは食べるよりつくるほうが好きなんです。いまのところいちばんしっくりきている自分の表現方法です。あとは、パンをつくることで完結するのではなく、パンが媒介になって他の人とつながりができるなど、何か次のステップができたらいいなっていうのはなんとなく考えています。修業させてもらった鎌倉の〈パラダイス アレイ ブレッドカンパニー〉はそのへんがすごくて、アーティスト集団というか、パンを使って遊んでいるんですよね。そういう感じで、僕ももっとできたらいいな、と。そうなったほうが、街のいち商店としても、おもしろい存在になるんじゃないかと思っています」
【今回ご紹介した〈コンビニエンスストア髙橋〉について】

店名:コンビニエンスストア髙橋
◾️住所:東京都練馬区春日町3-4-4 春日町3丁目第2アパート4号棟
◾️電話:03-5848-9127
◾️営業時間:10:00~18:00
◾️定休日:不定期(インスタグラム参照)
◾️公式サイト:https://www.instagram.com/convenience_store_takahashi/
(photo: Jiro Fujita/photopicnic text: Mick Nomura/photopicnic)