街の歴史と、店の歴史と。〈夢彩菓すずき〉のものづくりと商いのあり方。
池袋線
飯能駅

街の歴史と、店の歴史と。〈夢彩菓すずき〉のものづくりと商いのあり方。

池袋線「飯能」駅を降り、銀座商店街を進んでいくと現れる〈夢彩菓すずき〉。コック帽を被り、ケーキの皿を手に持ったシェフの壁画からは想像できないけれど、実はこちらは明治時代に創業した老舗菓子屋なのです。100年超の伝統をその身に背負いつつ、変化を厭わず誠実に職人仕事を全うする鈴木康弘さんが、5代目のオーナーです。
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鈴木康弘さん 西武線在住歴60年

国内とフランスで修業後、家業を継いで5代目のオーナーシェフに。和菓子から洋菓子まで手がけ、地元に不可欠な存在の〈夢彩菓すずき〉を切り盛りする。

和菓子屋が洋菓子屋へ変身!? 老舗の跡取りが打ち出した解決策。

入間川の谷口集落だったため、古くから栄えていた飯能市。江戸時代には、材木と絹織物の産地として発展しました。そうした歴史の厚みに呼応するように、飯能には数代続く老舗が少なくありません。明治初期に創業した〈夢彩菓すずき〉もそのひとつ。現在は5代目・鈴木康弘さんが暖簾を守っています。

「昔の地図を見ると、はじめは高麗横丁(現・本町)のほうに店を構えていたようです。飯能駅ができて街の中心が移ったのに合わせて、現在の場所に移転してきたと聞いています」

3代目までは純粋な和菓子屋で、屋号も〈四季の茶菓鈴木屋〉でした。4代目、つまり鈴木さんの父親の代の時、フランス帰りの若き鈴木さんが、家業に洋菓子という新風を吹き込んだのです。

「子どもながらに親の商売を見ていておもしろそうだとは思っていたので、店は継ぐつもりでした。でも、和菓子はどうもな……と。実は私、当時はあんこがあんまり好きじゃなかったんです(笑)」

長男としての責任感と自らの嗜好との折衷案が洋菓子だった、というわけです。

菓子づくりへの目覚め、職人への道は、フランスへ続く。

それでも当初は菓子職人になるつもりはなく、あくまでも経営者として家業に関わろうと考えていた鈴木さん。大学を卒業後、六本木〈クローバー〉に就職し、2年間、販売業を務めます。その後、経営に徹するにしても製造のことは知っておいたほうがいいと父に忠言され、鎌倉〈レ・ザンジュ〉に転職。初めて菓子職人として働き出したこの時、鈴木さんは20代後半。職人としてはかなり遅いスタートではありましたが、菓子づくりに目覚め、やがて本場の製造の現場を見てみたいという気持ちを強くもつようになりました。挨拶や数字、お菓子の原材料がわかるくらいにフランス語を学ぶと、フランス語で書いてもらった履歴書を懐に、いきなり渡仏したというから驚きます。

「なんのコネもツテもありませんでしたから、とりあえず行くしかなかったんです。とはいえ場当たり的だったわけではなくて、出発前に一応、現地の菓子屋の見当はつけていったんですよ。パリでは給料はもらえないけど、地方では少しはもらえると聞いたから、地方を中心に、フランス国内にある菓子屋を10軒、ピックアップしたんです」

時は1980年代終盤。折りしも、フランスの菓子業界における日本人のパティシエの活躍が目立ってきた頃でした。10軒まわってダメだったら諦めて帰国しようと思っていたところ、なんと最初に扉を叩いた店で、めでたく雇用に。その後、パリの〈グランタン〉と〈マキシム〉の厨房でも経験を積み、帰国後、いよいよ家業に就くことになりました。

地元の菓子屋の自負として、飯能の魅力をお菓子で表現。

こうして、4代目による和菓子部門と5代目による洋菓子部門の、二本柱の〈鈴木屋〉が誕生しました。4代目が他界してからは屋号も現在の〈夢彩菓すずき〉となり、メインの商品は洋菓子になりましたが、だからといって伝統が途切れてしまったわけではありません。

先々代が考案した「野球最中」、先代が考案したパイまんじゅう「げどう」などは鈴木さんが引き継いでつくり続け、飯能銘菓として同店の名物であり続けています。そこに鈴木さんが創作した「夢馬クッキー」が加わり、店頭には飯能の特徴を表した、親子3代それぞれの創作銘菓が一堂に会しているのです。

ご自身のみならず、代々同じ土地に暮らす鈴木さんに飯能の魅力を尋ねると、「日本全国そういう街はあるかもしれませんが、都心から近いのに、山あり、川ありで、非常に環境がいいですね。私は登山をやっていて、普段の休日にも近くの山を歩いたりするもんですから、より恩恵にあずかっています」とのこと。

店のある銀座商店会の理事長であり、飯能市商店街連盟の元会長でもある鈴木さんは、最盛期の街の活気を取り戻すべく、「飯能がんばる商店街ポスター展」などのユニークな試みにも取り組んでいます。そんななか、30年もの間、職人として菓子づくりに携わってきましたが、仕事はますます難しくなるばかりだといいます。

「追求するほどに、求めることがどんどん高くなってしまいますから。試行錯誤する連続で、これでいいやと思ってしまったら、おしまいだと思います。職人ってきっと、そういうものではないでしょうか」

定番商品でも配合などを頻繁に変えているという鈴木さん。変わらず良いものをつくり続けていくためには、変化はむしろ必要。それは、常に良い素材を選び、いつも手を抜かずに仕事をしたいという一心から。鈴木さんの言葉から、人々が長く暮らしてきた飯能という土地で、ものづくりと商いが持続する、そのありようの一端を見た気がしました。

今回ご紹介した〈夢彩菓すずき〉について

◾️店名:夢彩菓すずき
◾️住所:埼玉県飯能市仲町6-11
◾️電話:042-972-2071
◾️営業時間:9:00~19:00
◾️定休日:月、火(祝日の場合はともに営業)
◾️公式サイト:https://www.yumesaika-suzuki.co.jp

※記事に掲載されている情報は取材時のもので、現状と異なる場合がございます。

(photo: Jiro Fujita/photopicnic text: Mick Nomura/photopicnic)

お気に入りスポットを聞きました!

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能仁寺
静謐なムードは、癒しにもリフレッシュにも効果的。〈能仁寺〉は、鈴木さんが休日によく歩くというお気に入りの散歩コースに入っているスポットです。能仁寺~天覧山~多峯主山とまわって2時間ほど。
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能仁寺
室町中期の文亀元年(1501年)まで縁起を遡ることのできる由緒あるお寺。北庭として保存されている「池泉鑑賞蓬莱庭園」は、本堂や大書院などと並んで見所。天覧山の急斜面を取り入れた上下二段式庭園です。
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能仁寺
秋は紅葉も見事です。■住所:埼玉県飯能市飯能1329 ■電話:042-973-4128 ■拝観時間:9:00~16:00 http://noninji.net ※緊急事態宣言期間中は庭園拝観休止の場合あり。お問い合わせください。
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トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園
フィンランドの著名な童話作家、トーベ・ヤンソンとの手紙のやりとりから生まれたという公園。子どもも、大人も、生き物も、草花も。彼女の想いが園内のさまざまなところにちりばめられています。
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トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園
読書が楽しめる森の家、コンサートなどが行われる子ども劇場など、童話のなかから出てきたような建物がとてもかわいらしい。夜間ライトアップでは、それらの個性的な建物が幻想的に照らされます。
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トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園
■住所:埼玉県飯能市大字阿須893-1 ■電話:042-972-7711 ■開園時間:9:00~17:00、土・日・祝日 9:00〜21:00(日没〜21:00 ライトアップ実施) ■休園日:月(祝日の場合はその翌平日) https://www.city.hanno.lg.jp/akebono ※緊急事態宣言期間中は、ライトアップ休止で17:00閉園。きのこの家、森の家は閉鎖当分の間、閉鎖中
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Café Puisto
〈トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園〉のなかにあるこちらのカフェは、2018年にオープン。「Puisto(プイスト)」とはフィンランド語で「公園」の意味。飯能市内の〈ひより農園〉の野菜がふんだんに使われたメニューが自慢です。
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Café Puisto
写真はスモーブロー(オープンサンド)の「アボカドとマーマレード」(900円)。新鮮で意外な組み合わせは、味わいも色合いも相性抜群。「飯能紅茶」(セットドリンク180円)をプラスして。
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Café Puisto
■住所:埼玉県飯能市大字阿須893-1 ■電話:080-4122-0141 ■営業時間:10:00~16:30(LO16:00) ■定休日:月(祝日の場合はその翌平日) https://www.cafepuisto.com

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西武鉄道路線図_1030

通勤・通学も便利な街。Hanakoオリジナル
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