パンを“ツール”に食の本質を伝え、つながり合う。所沢に根を張った〈いちあん〉が見つめる先にあるもの。
池袋線
所沢駅

パンを“ツール”に食の本質を伝え、つながり合う。所沢に根を張った〈いちあん〉が見つめる先にあるもの。

独学でパンの製造をマスターし、リヤカーの移動販売からスタート。いまや地元で人気のベーカリーカフェ〈いちあん〉のオーナーである市川忍さんは、パン職人にして、食をとおして心と体の健康と幸せを追求する開拓者でもありました。
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市川忍さん 西武線在住歴20年

2009年〈いちあん〉創業。「食豊(しょくほう)」を理念に夫婦で店を切り盛りしている。

かれこれ20年。人生の半分を過ごしてきた所沢の包容力。

市川さんが所沢に居を構えたのは、奥さまのちあきさんの就職先がこのエリアだったから。自ら選んだというよりは、いわば成り行きでした。でも、それから20年にわたり現在まで所沢の住民でい続けているのは、この街が気に入っているからに他なりません。

「妻ともよく話しているんですが、かなり暮らしやすいんですよ。自然が多くて子育てするのに非常にいい環境です。それでいて交通の便がいい。電車で都内に出るのも楽ですし、クルマだって、東北方面にしろ、東海方面にしろ、近県にしろ、どこにでも出やすいんです」

サービス業と飲食関係の会社勤務を経て独立し、“パン屋”になったのは今から10年前のこと。当初は店舗を持たず、自転車とリヤカーの移動販売でパンを売っていたそうです。

「パンを生業に選んだのは、自分でつくれる日常的な食べ物だから。素材や製法の自由度が高いと思ったのも理由です」

独学でパンづくりを習得した市川さん。学校へ通ったり修業に出たりすることも考えたけれど「教えてもらった色にそのまま染まってしまうのは避けたかった」から、遠まわりでも自分でやってみようと決心したのでした。

自らの実感と実績を拠り所とするのは、市川さんの仕事、いや、人生に対する基本姿勢のようです。

たとえ面倒でも、非効率でも、自分の信じる価値観を優先する

〈いちあん〉では、あんこも自家製です。

「私は甘いものも好きですし、パン屋をやるにあたって、あんぱんは絶対に外せなかった。できるかぎりは自分でつくりたいという思いがありますから、当然、あんこだって豆を炊くところからやりたかった」

つぶあん、こしあん、白あん、くるみあん、狭山茶あん、ラムレーズンあん。あん炊きはかなりの重労働だけれども「手をかけたぶんだけ、おいしくなっちゃう。だから、仕方ないんです」。

ひと口にパン屋といってもいろいろあって、出来合いの生地や具材を組み合わせて焼くだけの店もあれば、あんこをわざわざ自家製する〈いちあん〉のような店もあります。

「選択肢はさまざまで、自分がどれをよしとするかというだけの話なんですけど。私たちはかなり際(きわ)のところにポイントをおいています。商売ももちろん重要ですが、これはもう、価値観でやっているようなものですね」

できるかぎり自分でつくりたい。それが叶わなければ、少なくともどんなものなのかをきちんと知りたい。水や牛乳、卵、野菜など、原材料の産地訪問をするのも、手書きの訪問記を客席に置いてお客さまに伝えるのも、そんな思いからの行動です。

「どこで誰がつくっているどんなものなのか、説明できるものをつくってお客さまにお届けしたいんです。ですから、私は面倒な道を選んでいる面倒くさいやつということになるんですけど(笑)、こういう人間がいたっていいんじゃないかなとも思う。それでうちを選んでもらえたらいいし、選んでもらうにはどうしたらいいかを考えればいいわけですから」

市川さんが暮らした20年の間に、この街には若い世代がずいぶん増えたといいます。市川さん夫婦の子ども好きからキッズスペースを設けていることもあり、〈いちあん〉には若い世代の子連れのお客さまがたくさん来店します。
そんな子連れ世代にとって、安全安心な食べ物を謳い原材料の情報を開示しているベーカリーの存在はとりわけ貴重でしょう。そうしたお客さまの存在が〈いちあん〉の存在価値を高めているに違いありません。

“食豊”を伝える使命を帯びて、所沢の人たちと一緒に、未来のために。

パンをつくり始めて10年。自宅近くのこの場所にベーカリーカフェを構えて4年。ここ1年ほどはスタッフに製造を任せられるようにもなり、整った土台の上で新しいことを始められる態勢になってきた、と市川さんは言います。

というのも、市川さんはいわゆるパン職人のタイプではありません。パンそのものというよりは、パンを通じて、そこから外を見据えているのです。

「私は今、安全でおいしい食品を提供する取り組みである〈良い食品づくりの会〉や、廃棄ロスを減らすための〈rebake〉などに参加しています。〈いちあん〉はパン屋ですが、それだけではなく“知っていただく”場にしたい。お客さまに出どころが明確なことで安心感を持っていただいたり、体が喜ぶ食の大切さをお伝えしたりするのは、私ができる役割だと思っています」

ベーカリー同士、あるいは他業種の飲食店や農家など、所沢エリアで横のつながりを持つべく奮闘中。パンをツールに、これまでやってきたことに積み重ねるようにして、ネットワークやコミュニティづくりに情熱を注いでいます。開拓者魂でもって、市川さんの挑戦は続いていきます。

【今回ご紹介した〈いちあん〉について】

■住所:埼玉県所沢市旭町27-23
■電話:04-2941-6862
■営業時間:10:00~18:00(ランチ11:30~14:00)
■定休日:火・水
■公式サイト:http://www.ichian.co.jp

(photo: Jiro Fujita/photopicnic text: Mick Nomura/photopicnic)

○次回の更新は12月11日!東久留米駅のカフェを取り上げます。お楽しみに。

お気に入りスポットを聞きました!

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安藤農園
なす、トマト、オクラ、枝豆、さつまいも、里いも、にんじん、葉物など、40種ほどを育てている安藤さん。農薬や肥料は使わない自然栽培で、種もできるだけ自家採種しています。
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安藤農園
「脱サラして新規就農した安藤さんは、創業時からの付き合い。安藤さんのつくる野菜はとにかく力強くておいしい。安藤さんとの出会いは〈いちあん〉のキャッチフレーズ「カラダ よろこぶ たべもの つくる」が生まれたきっかけにもなっています」
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安藤農園
安藤農園の野菜は、ふじみ野にある「サン・スマイル」で購入できます。また〈いちあん〉や〈トロンコーネ〉、〈ぐるりごはん〉など、所沢の飲食店でも安藤さんの野菜を使ったメニューが提供されています。(写真提供:いちあん)■住所:埼玉県所沢市下新井
トロンコーネ
ともに所沢出身でソムリエである山﨑圭礼さん・智子さん夫妻が2017年にオープンしたイタリアン。生産者の想いを乗せて、手間と時間と愛情をかけた料理とこだわりのワインでもてなしてくれます。
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トロンコーネ
この日のアラカルトには、「安藤さんのお野菜のテリーヌ(800円)」が。大根、紅芯大根、さつまいも、里いも、ネギ、にんじん、蕪、からし菜、ヤーコン、小松菜、ベカ菜と、安藤農園の11種類もの野菜が使われています。
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トロンコーネ
珍しいワインもすべてグラスで飲め、遠方からワインラバーも訪れます。■住所:埼玉県所沢市松葉町3-1 ■電話番号:04-2946-9074 ■営業時間:ランチ12:00~14:00LO、ディナー18:00~21:00LO ■定休日:日(ランチは不定休)■http://troncone.jp
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所沢航空記念公園
所沢の代表的アイコンである航空公園は、国内初の飛行場の跡地を利用してつくられました。「子どもたちが小さいころはよく家族で遊びに、いまはもっぱらイベント出店で訪れることが多いですね」と市川さん。
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所沢航空記念公園
所沢航空発祥記念館、日本庭園、テニスコートや野球場、アスレチック、ドッグランなどの施設があるほか、本物の飛行機が展示されているなど、さまざまな楽しみ方、過ごし方ができるようになっています。
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所沢航空記念公園
最寄りは西武鉄道新宿線航空公園駅。〈いちあん〉からも歩いてすぐなので、天気のいい日はパンを買って、ピクニックはいかが? ■住所:所沢市並木1-13 ■電話番号:04-2998-4388(管理センター)

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